たまごは呼吸している
こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。
つい先週、こんなニュースが海外で話題になっています。
“シルバーレイク公園でのボランティアによる卵漬け作業に抗議が殺到 (Protest greets volunteer egg-addling effort in Silver Lake Park | Post Bulletin)”
これ、どういうことかと言うと、
米国にシルバーレイク公園という大きな自然公園があるのですが、そこのガン(ガチョウ)が増えすぎたのですね。で、数を減らすために「卵に油を塗る」作業をボランティアでしていたところ、「なんてかわいそう!」という抗議が殺到して騒ぎになっているのです。
卵が孵化14日目になっていないものに限るから人道的だよ、残す卵もあるので全滅じゃないよ、という意見に対して、「生まれないのを分かっていて抱卵させるなんて親鳥がかわいそう」「プラスチックの偽卵と入れ替えるべき」「規模が大きすぎだ」などの反論がでて対立しているようです。
さいしょに読んだときは「そんなことせずに獲った卵を責任もって食べちゃえばいいのでは。」とも思ったのですが、それだと減った分だけまた産んでしまうので意味がないんですね。
うーん、動物愛護の視点と環境バランスの観点が絡み合っていて、なかなか難しい問題です。
さて、
事の是非はちょっと置いておいて
ちょっと興味深いのが、
「卵に油を塗る」という点。
なぜ、それで「雁の数を減らせる」のでしょうか‥‥‥!?
〇卵は呼吸をしている
すべすべとした卵のカラ。
実はこの卵殻には、なんと一万個もの微細な穴があいています。
「気孔」というのですが、そこから呼吸(ガス交換)をしているんです。
有精卵の場合はこの気孔から酸素を取り込んで胚が育ちますので、すなわち上記のニュースのように油でコーティングしてしまうと、かわいそうですがそれ以上育たなくなります。
有精卵だけじゃなく、あなたのご家庭の冷蔵庫にある卵も同じ。
呼吸(ガス交換)をしています。
なので、保存中にその影響がでます。
食用たまごの場合はメリットとデメリットがありまして、
まずメリットは、呼吸の結果、ゆでたまごがキレイに仕上がる、ということ。
産みたての卵にはたっぷりの炭酸ガスが含まれていてpHが低く、そのせいで茹でると白身が卵殻膜とくっついてきれいに剥けません。あちこちくずれてボロボロになっちゃいます。
でも、気孔から3日ほどかけてゆっくりと炭酸ガスが抜けまして
そうすると、ツルン!と剥けます。
呼吸のデメリットは、卵の「鮮度」が落ちやすくなること。
油などでコーティングして呼吸を止めると、有精卵は成長が止まってしまいますが、
卵の鮮度は長持ちすることが知られています。
これはいろんな研究データがあるのですが、油などでコーティングして呼吸を止めることで、まず黄身の盛り上がりや、白身のプリッとした弾力性などのいわゆる「張り」が長持ちします。
海外にはそのために開発された卵に膜をつくるバイオコーティングまで作られています。
(関連:ふりかけるだけで卵の保存性を劇的に伸ばすバイオシールドが開発される!?【インド】 | たまごのソムリエ面白コラム)
その他、呼吸によりそばにあるいろんな食材の香りを吸ってしまうなど、いくつかの影響があります。
あまり卵を長期間保存することなんて無いかと思いますが、災害などで局所的に食料供給が絶たれ、なにがしかの保存性を求められるサバイバル状態が来るかもしれません。
もしそんなときがありましたら、卵と油の関係を思い出してくださいませ。
上記のニュースの環境トラブルは重要な問題ですが、卵と油、プラカードに書いてありますように「ケーキのため」だけに使えるようになりたいものですね。
ここまでお読みくださって、ありがとうございます。