小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

たまごの歴史・文学・文化学 記事一覧

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

フィンランドに伝わる天地創造伝説に、がでてきます。

フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」によると、


大気の女神イルマタルがいました。

700年ものあいだ原初の海を漂っていたのですが、ふと海から膝をだしたところ、そこに一羽の鴨が飛んできて留まり、巣をつくりました。

そして鴨は黄金のたまご6個を産み、次に鉄のたまご1個を産みました。

ところが、フッと女神が膝を動かしちゃったのですね。

あら、っという間に7個のたまごがボチャン!と海に落ちてしまいます。

そしてその割れた中身から、

大地、空、そして太陽に月、星、雲が生まれたのだそうです。

そこから手足をつかって湾や砂浜、漁場を創り出し、

その後打ち寄せる波によって身ごもり、女神は最初の人、ワイナミョイネンさん(聖書でいうアダム)を産んだのです。

卵が割れていてよかったですねェ。ワイナミョイネンさん、ずっと海で浮かんでないといけないところでした。


フィンランドには世界一島が多い群島があるそうで、なんと島の数70000以上。すごい!

海から始まる神話なのもうなづけます。

個人的には天地創造のはじまりとなったのが金の卵との卵、というのが興味深いです。

鉄は地球の地殻以外のほとんどを占める鉱物ですし、歴史的には鉄のコントロールは強者の力をもたらした存在です。ヴァイキングにもつながる勇ましさを感じますね~。

この叙事詩カレワラは、単なる昔話や伝承をまとめたものというだけでなく、民族のアイデンティティとなり、フィンランドのロシア帝国からの独立に大きな影響を与えた存在なんだそうです。

神道文化として日々の文化に根付いている古事記や日本書紀とよく似ていますね。

上の絵はフィンランドを代表する画家ロバート・ヴィルヘルム・エクマンさんが描いた女神イルマタルが海に漂うシーン。

フィンランドにはカレリアパイ(カレリアンピーラッカ)なる料理があります。小麦とライ麦を練ってマッシュポテトを乗せて焼き上げたパイ料理で、たっぷりのゆでたまご&バターで食べるのが定番なんだとか。

うーん、ぜひとも現地で食べてみたいですね!

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年06月28日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

以前、グリム童話に出てくる「熱々のたまご」をご紹介しましたが、別のグリム童話・卵のお話をご紹介。今度はアツアツどころか肝が冷え冷え、ちょっと怖いお話です。

フィッチャーの鳥」と言いうお話。


あるところに3人姉妹が住んでいました。

その付近では若い娘の行方不明が続いており、もっぱらの話題となっていました。

ある日、物乞いに変装した魔法使いが長女をさらい、暗い森の中の豪邸に連れ去ったのです。

魔法使いは娘に欲しいものは何でも与え、「君はしあわせだよねェェ。望むものなんでもあるんだから。」とささやく。

2,3日して、

「ボクはちょっと旅に出てくるね。留守中どの部屋も好きに使ってイイけど、隅にある一部屋、ここだけは入っちゃダメだよ……!この小さい鍵で開くけども、ゼッタイ開けちゃダメだよォ…。」

そして、

娘に鍵と卵を一個わたしました。

「このを大事にだいじに持っていてねェ。いつも肌身離さずもっていること。汚さないように。割らないように大切に。」

と言い残して出かけてしまいました。

しかし‥‥‥

好奇心に負けた長女は、その開かずの間を開けてしまいます。

中をのぞくと‥‥‥

部屋には大きな斧、

そして

大きなタライが部屋の真ん中に。

見ると中は血みどろ、バラバラになった沢山の死体が‥‥‥!

あまりに驚いた長女は、卵をタライに落としてしまいます。

あわてて卵を取り出し、カギをしめ知らんフリをしていましたが、なんと…!卵に付いた血の染みがどうしても取れません!

帰ってきた魔法使いが卵を見て‥‥‥

「あの部屋を見たなァァ。」

‥‥‥

さて、三姉妹の家では、長女に続き次女まで行方不明になってしまいます。

攫われ部屋を見て同じく卵を汚してしまい、次女も同じ目に‥‥‥

そして、姉たち2人の身を案じる末娘まで、ついには魔法使いに攫われてしまいます‥‥‥!

同じく森の豪邸で卵と共に一人留守番をさせられた末娘。

やはり気になって、部屋を開けてしまいます。

部屋のタライには、古い死体と共に、姉2人のバラバラ死体が‥‥‥!


が、姉2人とちがって末娘は卵を持ち歩かず、ちゃんとしまってあったのですね。

なので、卵を血で汚すことなく対処ができたのです。

まず、二人の姉の体をきちんと並べ、生き返らせます。

「ああ良かった……!なんとか姉さんたちを逃がすから、家に着いたらすぐ助けを連れてきて!」

と、姉二人を金貨の入った箱に隠れさせます。

帰ってきた魔法使いは、

「ウンウン、君は部屋をのぞかなかったねェ。汚れのないキレイな卵だァ。試験は合格だァァ。キミと結婚しようゥ。」

「わかったわ。じゃあ、結婚の持参金をワタシの実家に持って行ってね。」

「もちろんだよォ。」

と、姉二人の入った金貨の箱を背負っていきました。

その間に、末娘は魔法使いの知人たちに結婚式の招待状を送ります。

それから、残っていたガイコツに飾り付けをして花束を持たせ、屋根裏部屋の窓から見えるように並べました。

さて‥‥‥

全ての準備が終わった末娘は、

蜂蜜の樽に入り、

羽根布団を割いてその中で転がりました。

羽毛が全身にくっついて、一見大きな鳥みたい。

それから、堂々と家から出て行きました。

途中、結婚式に向かうお客にすれ違います。

「鳥さん、どこから来たんだい?」

「近所のフィッチャーさんの家からよ。」

帰ってきた魔法使いにもすれ違います。

「あァ鳥さん、ウチの若い嫁さんは何をしているかなァ?」

「きれいに掃除をして、窓からご覧になっているわよ。ほら。」

…と飾ったガイコツを指さします。

そして‥‥‥

家に入った招待客と魔法使いを、

助けに来た家族の協力で、誰も逃げられないように閉じ込め、火を付けました。

魔法使いと仲間たちは焼け死んでしまいました。


めでたしめでたし……なのかなぁ??

「童話」なのに、ところどころ相当グロイですね。

カンタンに生き返っちゃうのは昔話っぽいですが、

それ以外の、例えば開かずの部屋に入るシーンなんかはホラー映画顔負けのストーリー建てで臨場感あります。

ちなみになぜ卵を持たせるのか?なぜ卵を汚さなければOKなのか?という点ですが、これは女性の「清純さの象徴」が真っ白な卵なんだそうです。

欧州の「卵は聖なるもの」というイメージも影響しているのかもしれません。


〇残酷なのはOK!?グリム童話

グリム童話は、子供ウケや世情の変化を意識して7回の改訂がされています。

その都度、たくさんのシーンやお話が取捨選択されているんです。

性的な部分がカットされたり、「実母の虐待」だった“白雪姫”や“ヘンゼルとグレーテル”などのお話は「継母」に変えられたり‥‥‥

でも、残酷シーンについては全然寛容で、シンデレラなんか逆に継姉への復讐シーンが改訂後に追加されたくらい。

この「フィッチャーの鳥」のお話も第7版までしっかり残っています。

こばやしは卵をチェックするときに、時々このお話を思い出します。

「そもそも卵がキレイじゃないとお話が成立しないよなぁ。」

ぼくも商売柄たまごは大事にあつかいますので、多分同じ目にあったときは卵を持ち歩かずに大事にしまっておくかと思います、その時は生き残れるかもしれません(笑)

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:グリム童話の熱いたまご―たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年06月14日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

ドイツ・オランダにまたがる北海沿岸、そこにそそぐエルベ河周辺地域では古くから、

「卵を割ったあとのカラは、必ずくしゃくしゃにして捨てる」

…という風習があります。

子供のころからお母さんに

「ちゃんと卵のカラをつぶさないとダメよ。」と言われて育つのです。

なぜなら、

小さな妖精(エルベ)が卵のカラを船がわりにしてやってくるから。

この川や北海では、卵のカラがぷかぷか浮いているのがよく見かけられまして、これは妖精が船として乗り回したあとのものなんだとか。

「あら、かわいらしくていいじゃない。」

なんて思っちゃいけません。

あちらの「妖精」っていうと日本で言う『妖怪』くらいの位置づけでして、

良いヤツもいるけども、

子供を誘拐したり病をもたらしたり、

悪い妖精がいっぱいいます。

見た目もゴブリン?みたいな醜悪な姿のヤツもいて、

そんなヤツがやってくるきっかけ、“乗り物”を提供するなんてとんでもない!

という事ですね。

うーん、日本の「夜中に口笛を吹くとヘビがやってくる」みたいなカンジでしょうか?


〇まだある!卵のカラ伝説

広くヨーロッパでは、ほかにも卵のカラと妖精の伝説がありまして、有名なのは「取り換え子」のお話。

『人間の子がひそかに連れ去られ、その身代わりとして妖精やエルフ・トロルなどが成りすましている。』

という言い伝えでして、

ある日ふと、自分の子供に違和感を感じる。

「どこかヘンだわ‥‥‥。」

と思っていると、育つにつれダンダン狂暴になってくる。

これ、相当怖いですよね…。

見破る方法は、卵のカラを火にかけて料理をしたりカラでビールを醸すフリをすること。

「卵のカラで料理なんて、こんなの見たことないぞ!」

と叫んで消えてしまうのだとか。(連れ去られた子供は、地域によって戻してくれたり消息不明だったり…)

(参照:たまごのチョット怖い伝説【取り替え子】 | たまごのソムリエ面白コラム

ヨーロッパに限らず世界にはたくさんの卵の伝説がありますが、「たまご」じゃなくて「たまごのカラ」に焦点が当たっているのは、なかなか珍しくて興味深いです。

卵=神聖というイメージが影響しているのは間違いないですが、あと、

『いらなくって捨てる物でも気をつけないと、災いを招いたり、役立ったりする事があるのだ』という昔の人の戒めなのかもしれません。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年05月3日

故俳人作家・石川桂郎さんの句に、

「塗椀に割つて重しよ寒卵」

という句があります。

「寒卵」って何でしょう?

古来より、大寒の暦に生まれた卵を食べると金運が上がる、と風水では言われます。

なぜそんなことが言われるのかというと、

「寒い時期は、鶏が最も餌を食べる時期」だからなんです。

寒い環境は、羽毛に包まれた鶏にとってとても快適、

飼料も良く食べるんです。

それだけ、卵質の良い、滋養に富んだたまごを産む。

それを食べると活力が増して、商売が上手く行く。

金運が上がる。

そう考えられてきたのです。

江戸時代以前の卵はとても貴重でぜいたく食材でしたが、

この時期は産卵率も上がり、低温で卵の保存性も上がりますので、おそらく手に入りやすさも違ったのでしょうね。

上記の俳句ですが、

椀の中に、季節のもっとも滋養に富んだ卵をぜいたくに割り落として食べる。

普段の汁物よりもずしっと重くて、それを実感しながら贅沢を喜ぶ。そんな様子が感じられるしみじみステキな句です。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年02月8日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

帝政ローマ時代の博物学者で軍人のプリニウスさんという人が書いた「博物誌」という本、そこに「3スパン人」という小人のお話が出てきます。

スパン、とはローマ時代の単位で、手を広げた親指から小指の先までの長さ。1スパンだいたい9センチくらいですね。

3スパンだから……27センチの背の高さになります。

ちいさい!

博物誌の記述を要約すると、

インドの山奥に3スパンより小さい小人族がおり、鶴に取り巻かれている。春になるとヤギにまたがり全員で隊列を組んで海まで下って行き、弓と矢で3ヵ月間ツルと戦う。ツルの卵を食べ、泥と羽毛と卵のカラの家に住む。

のだそうです。

ちなみに頭が大きくて体はムキムキなんだとか。

卵を食べ、ヤギに乗ってツルと戦い続ける小人。うーん、なかなか面白いイメージですね。

この「博物誌」はドラゴンやユニコーンなど現代でも知られる幻獣が多数紹介されている超有名な伝承本ですが、「鶴と戦い卵を食べる小人族」はその他にも、トロヤ戦争を描いたホメロス著「イーリアス」や哲学者アリストテレスさんの著述にもが登場しています。

卵の家…、どんなカタチだったのでしょうね。とても気になります。

〇日本でも食べられていた食材、鶴のたまご

ちなみに日本でもツル肉ツルのたまごは普通に食べられていました。

江戸時代の食材について細かく記された『本朝食鑑』(1697年)には、上品な風味の高級食材としてツルの肉やツル卵が紹介されています。

鶴は百病に効く、と信じられていたのだとか。

なにせ江戸時代に「三鳥二魚」と呼ばれた代表的な珍味のひとつが鶴でして、割とメジャーな食材だったようで解体方法を記した料理本がいくつか残っています。

鶴のたまご…うーん、どんな味なんでしょうね。卵屋としてはとても気になります。

現代ではもちろん法で禁じられておりまして、鶴のたまごを食べることはできません。

鶴は植物食嗜好の強い雑食性で、果肉や種子・葉のほか魚などをバランスよく食べるそうです。

現代の養鶏配合飼料も同じようなバランスを考えた配合になっていますので、意外と鶴の卵は「現代の鶏卵」に近い美味しさがあるかもしれません。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2021年01月12日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

スペインのバスク地方というところに、面白い竜の伝説があります。


ある山に、恐ろしい竜が住んでいました。

頭が7つ、体は大蛇のように長く恐ろしい風体で、夜ごとに美しい娘を食べに村にやってくる。

今宵も生贄に選ばれた娘が、洞窟の前に座らされました。

ところが、今度ばかりは!とある若者が立ち上がったのです。

装備を整えて、娘を食べにやってくる竜を待ち構えた。

果たしてやってきた7つ首の竜に若者が切りかかり、戦いが始まりました。

若者もかなりの手練れで、竜とすさまじい戦いを繰り広げます。

と、戦いの合間に若者が、

「ああちくしょう、もし今、一杯のワインと、この娘さんの麗しいキスがあれば、お前なんかすぐやっつけてやるのになぁ…!」

と竜に向かって叫びました。なかなかキザですねェ。

すると、竜が答えたのです。

「ウワハハ!!そんなものでワシを倒せはせんぞ!!ワシに勝てるのは、この額に卵をぶつけられる者だけだッ!!」

そのやりとりを横で聞いていた娘は、サッと村へ取って返し、卵を持って帰ってきました。

「卵よ!」と、若者にその卵を渡し、共に投げつけたところ、

竜の額に当たって、アッサリ竜は死んでしまったのです。

めでたしめでたし。


ええ……!?

そんなので良いの…!?

……とは思いますが、実は「卵が竜を倒す武器」なのは“竜の伝説”としてはわりと良くある『定番』なんだそうです。

謎のおばあさんからもらった卵だったり

たまごに呪いをかけて武器(?)にしたり

黄身の無い特別な卵だったり

そんな卵で竜を倒す似たお話が各地にあって、西洋の人からするとそこまで奇異なストーリーではないのだとか。

うーん…、日本で「山んばをとんちで退治する」話にいろんな地方バリエーションがあるような感覚でしょうか。

 

〇たまご=聖なるものという古い信仰

キリスト教以前の信仰でもあるのですが、「たまご=聖なるもの」という考え方はヨーロッパでも広く見られます。その一部が残り、イースターエッグや断食明けの卵投げなどのお祭りと結びついているんです。

卵に対する敬愛する空気感といいますか、日本で言う鯛を「お祝いイメージ」でとらえたり、中国で桃が「不老不死の聖なるもの」として見られたりするような、そんなポジティブなイメージが卵に見られていて、たまご屋としてはなんだかうれしいですね。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまごの歴史・文学・文化学 2020年09月10日