小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

たまご・鶏のことわざ 記事一覧

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまご鶏のことわざ慣用句
88弾目は英国から。

<雄鶏と雄牛ばなし>
(cock and bull story)

大げさなはなし、ヨタ話のことです。

「トムが宝くじで10億円当たったって?
そりゃ“雄鶏と雄牛ばなし”だな。」

みたいにつかいまして、

4百年前の戯曲にも登場する
由緒ある言い回しなんです。

 

どうしてニワトリとウシが
ヨタ話になるのか。

これ、
ある有名なホテルがその由来なんです。

 

ロンドンバーミンガムの間に

「雄鶏亭」と「雄牛亭」
という2つの有名な宿が
あったんですね。

旅人はよく
この2つのどちらかに泊まる。

すると夜あつまって
ワイワイと情報交換をするんですが、
酒が入ると

 

「おりゃ森の中でクマより
でっかいオオカミを見たぜ!」

なんてテキトーな
おおげさな話が始まるわけです。

そして、そのウワサが
地元に広がる・・・。

つまり、
うさんくさい情報の2大発信源
この2つの宿だったのです。

 

たびたび騙される地元の人は

「どうせまた出所は
雄鶏亭か雄牛亭だろ?」

「今回は“雄鶏”だったよ。」

 

みたいな反応となり、

「雄鶏と雄牛ばなし」=ヨタ話

となったわけです。

これがそこそこ有名になりまして、
それぞれに泊まった旅人が

どっちのウワサが
より信じられ広まるか
2つの宿の旅人どうし
競い合うこともあったとか。

なかなか迷惑な話ですね(笑)

現代に例えるなら
バズり目的でアクセスを競い
噂をたれながすユーチューバー
みたいなものでしょうか。

 

すごいことに
どちらのホテルも現存してます。

雄鶏亭(cock hotel)は
こんなカンジ。

少なくとも5百年前、
1470年にはあったことが分かってまして、
イングランドの国家遺産にもなってます。

すごい老舗ですね~。

いちど泊まってみたいものです。

 

ちなみにどっちのホテルも
この不名誉なことわざ
めっちゃ利用してまして、

雄鶏亭(Cock Hotel)は
カンバンに
「有名な(Tha famous)」と
付いてますし

雄牛亭(Bull Inn)なんて
「悪名高い(The innfamous)」
って自分で書いてます。

面白いなぁ。

商売もこれくらいしたたかに
行きたいものですね~。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(参考:THE COCK HOTEL, Stony Stratford – 1310973 | Historic England)

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2025年03月6日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまご鶏のことわざ慣用句
87弾目は英語圏から。

 

<卵を吸ってこい
(卵をしゃぶってろ)>
(Go suck an egg)

 

「失せろ!」という意味です。

「あっちへ行け」

と、迷惑や軽蔑をあらわした
ちょっと失礼な言い方です。

京都の『ぶぶづけ』的な
もっと失礼なヤツですね

 

百年くらい前からある言い回しで、
今でも十分通じる表現です。

 

なんでしょうね?
どういうイメージで

卵を
チューチュー吸ったり
アメみたいに
しゃぶる絵面が

「向こうへ行ってろ」
になるんでしょうか??

調べてみたら
欧米でもけっこう疑問に
思う人は多いようで、でも
由来はハッキリしてないようですね。

 

分かっているのは、

もともと
『たまご吸い』(suck egg)
という形容詞があって、

男とか犬
バカにする表現だった
ということ。

 

『たまご吸いの犬みたいに
ケチな野郎だぜ』

なんて表現が
130年前には
使われてまして、

マークトウェインの
「トムソーヤの冒険」(1876)
にも出てきます。

 

なんでも若い子同士が
相手をバカにする意味で
使っていたっぽいですね。

 

その後
1930年代後半には
今と同じように

「どっかいけ!」

の意味で
『たまごを吸ってこい』
の言い回しが
使われていたようです。

 

『「モンドさん何かご注文は?」

卵を吸ってきやがれ。
オレは自分の酒を持ってるよ。」

彼は腰のポケットからハーフパイントのウイスキーを取り出し、テーブルに置いた。
(米国小説:エドウィン・コール著“ Burro Alley” (1938)より)

 

それっぽい理由としては、

“ロシアや欧州では
農村の子供たちは
たまごの上に小さな穴を開け
中身を吸って飲まされていた。

背が伸びてない、
育ちの遅い子供が
とくに卵を吸わされていたから

「出直しておいで。」

みたいに
追い出す意味で

「むこうで
卵を吸ってこいよ(笑)」

てな感じにバカにしていた。
それが

『あっちへ行け』

になったんじゃないか。”

不確かながら
そんな風にも
言われているようです。

 

もしそうならば、

『栄養満点なたまご』

なことが
人を遠ざける
軽蔑の表現を産んじゃった
わけですね・・・。

うーん、
卵屋としては
なんだか複雑だなぁ。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

 

(関連:おばあちゃんはナゼ卵を吸うの!?【たまごのことわざ】 | たまごのソムリエ面白コラム)※似てますが全くちがう由来のことわざです

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2024年07月9日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまご・鶏のことわざ第86弾、
今回は中国から。

 

<王八蛋(王八のたまご)>

忘八蛋(忘八卵)とも書きまして、
意味は

『恥知らず』

『くそ野郎』

とかの
かなりひどい言葉になります。

 

中国のノーベル賞作家・莫言さんも
たびたびこの表現をつかってまして、

たとえば代表作『紅い高粱』には

「最英雄好汉最王八蛋
(男のなかの男こそがいちばんろくでなしだ)

なんて表現がでてきます。

 

由来はあるサイテーの人物。

むかし中国に
王建という人物がいました。

これがまぁひどいヤツで、
暴虐の限りを尽くした
ものすごい悪党だったのですね。

一族8番目の子だったため
「八」がついて
賊『王八』と呼ばれていました。

 

儒教の大事な教え「四維八徳」の
孝・悌・忠・信・礼・義・廉・恥
8つが無い、
または8番目の『恥』を忘れた
『恥知らずの』王さんだから
王八なんだ、とも。

そこから、
彼みたいな人を指して

「王八蛋(たまご)」
→『恥知らず』『サイテー野郎』

みたいな表現に
なったのですね~。

 

ん?
『たまご』ってなんで付いてるの?
って思うかもしれません。

 

じつは、
中国では「たまご」は
侮蔑のことばなんです。

「バカ」の代名詞でして、
蛋(たまご)がついた
揶揄する言葉がいくつもあります。

“王八蛋”も、

「王八のたまご野郎」

みたいなよりダメさ加減を
強調するためにくっついている
とも言えます。

たとえば

『笨蛋(竹たまご)』と書くと
「のろま」「まぬけ野郎」の
意味になります。

 

ちなみに

王八蛋は中国読みで
「ワンパーダン」
ここから日本語の
『あんぽんたん』
になった

という説もあります。

アンポンタンがたまご・・・!
ちょっとビックリですね。

 

◆カメのたまごは悪口

あと、中国の北部では
亀のことを「王八」と
古くから呼んでまして、

これが語源だ、
なんて説もあります。

 

亀って
寝取られ男とか
間抜け男、みたいな意味がありまして

王八蛋「カメのたまご」
はつまり
バカ×バカのダブル悪口
ともいえます。

大人気漫画のドラマ化
「パリピ孔明」(四話)では
ラップバトルのシーンで
この“王八蛋”が出てきまして、

字幕で(亀の子野郎)
みたいな補足訳が付いてました。

 

日本人的な感覚とは
ちょっとちがっていて
中華のたまご料理名にも
影響していて面白いんですよね。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(関連:こんなに違う!世界のたまごイメージ | たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2024年03月23日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまご鶏のことわざシリーズ
今回はひさびさに日本から。

<鶯(うぐいす)の
卵の中のほととぎす>

この「卵」は
たまごの古い呼びかた
「かいご」と読みまして、

すると

うぐいすの
かいごのなかの
ほととぎす

と5-7-5的な
慣用句になります。
(「たまご」読みでもなりますが・・)

 

これは、

『自分の子供なのに
実の親子じゃないよ』

という意味です。

 

うん、
今までご紹介した中でも

トップクラスに
使いどころのない
ことわざですね~・・

 

托卵(たくらん)と
いいまして、
自分で巣をつくらず
他の鳥の巣にコッソリ
たまごを産み
育てさせる鳥がいます。

カッコウが有名ですが、
ホトトギスも
托卵するんですね。

托卵する
ホトトギスの卵って
重さ3グラム程度でして、
されるウグイスが2グラム弱

ひそかにまぜるなら
都合が良いサイズ差なのかも
しれません。

ちなみに色はそっくり。

上記は
国立博物館のデータですが、
いちばんだけが托卵、
ホトトギスの卵。

こりゃ分かんないですよね・・・!

 

そして、鳥だけじゃなく
ヒトでもありえるわけです。

 

子供が生まれ
育ってくる

だんだんと
顔だちなんかも
しっかりしてくる。

すると・・
なんか違うな。

 

そういう疑念が・・・

 

大手オンライン
恋愛相談サービス
「恋ラボ」の
アンケート調査によると

だいたい5人に1人が
浮気をしているのだそうで、

ことわざのような
シチュエーションは
少なくないのかもしれません。

 

ですが、
事実を伝えるとなると
これはなかなかハードです。

 

ビジネスの場では
伝えにくい、
厳しいことほど

前置きをおき
やんわりと伝えると
受け入れてもらいやすい
のだそうですが、

 

「お前の子供は
血がつながっていないんだ。」

なんて、
ショックの大きな
内容なんかは
できるかぎり婉曲な表現で
伝えるべきですよね。

すなわち、
「『ウグイスの卵の中の
ほととぎす』って諺が
あるけれど・・実は~」
なんて切り出すわけですよ。

そこに!
このことわざの真価が
あるのかも・・・
しれません。

 

◆1000年つづく由緒ある言い回し!

そして、
このことわざで
おどろくのは、

めっちゃ古くから
ある表現

だということ。

 

これ、

万葉集が出典
なんです。

つまり
千年以上前から
つづく表現。

鶯(うぐいす)の
生卵(かひこ)の中に
ほととぎす

ひとり生まれて
なが父に似ては鳴かず
なが母に 似ては鳴かず

という歌です。

 

万葉のむかしに、

ウグイスと
ほととぎすの
托卵関係に
よく気づいたなぁ

と先人の観察眼に
おどろきますね。

 

そして
今に至るまで
生活のなかの表現として
残っているというのも、

なんというか
変わらぬ人間の性を
感じますね~。

 

ここまでお読みくださって
ありがとうございます。

(関連:たまごの歌で覚える!?江戸の知恵『和歌食物本草』 | たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2024年01月10日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまご鶏のことわざ第84弾、
今回はジョージアから。

<家で鳴いたメンドリが
よそでタマゴを産む>

 

ようは「恩知らず」のことですね。

ウチで世話に
なっておいて、

ヨソで利益を
出すなんて
ひどい…!

 

・・・という
そんなことわざです。

気持ちとしては
わからんでもないですね。

 

たとえるなら
飲食店さんで長年手塩にかけ
育てた幹部さんが、

家庭の事情で引っ越して
他店で即戦力として活躍する・・・?
とかそんなカンジでしょうか。

 

かけた手間、苦労した分は
やっぱりリターンが欲しい、
と考えるのは人の常ですよね~。

ですが、
そう考えるんじゃなくって、

生き方として
『その逆を行きなさい』
と教えてもらったことがあります。


数年ほど前、
倫理法人会さんという会の
周年記念大会に、
ゲストとしてお招き
いただいたんですね。

その際に
「発顕還元の原理」
なるものをお聞きしました。

 

雨が降って山から川に、
海に流れていきます。
雲になって雨となる。

『水』は循環しているわけですね。
これが、“発顕還元の原理”。

 

でも、流れた水が
また戻ってくるのには
長~い時間がかかります。

同じように、
いいことをすればいいことが
帰ってくるわけですが、

時間がかかるので
すぐには判らない。

また、地元の徳島県から流れた水が、
地元に帰ってくるとはかぎりません。

東京に雨となって降るかもしれない。

 

同じように、

『いいことをしたら、
自分に返ってくるとは
限りません。
他人や子孫に返ることも
あるんです。』

 

・・・と、
そんなお話でした。

 

上記のことわざで言うと、
自分ちのめんどりが
よその家で卵を産んでるわけですが、

そこのお家のお父さんが
栄養ある卵を食べて
元気で長生きすれば・・・

また
ごキゲンでいてくれれば・・・

いつか回りまわって
自分に返ってくるかもしれない。
息子や孫に返ってくるかもしれない。

 

そう考えて、
人に良くして生きなさい、
ということですね。

僕にとっては新鮮で、
なるほど納得性のある
お話でした。


かつて
スペインのバスク地方の
とある町では、

星付きレストランのシェフが

「みんなでいっしょに
美味しいもん作ろうぜ。」

・・・と

レシピをすべて
オープンにした
ことで、

町中に一流レストランが増え
世界一の美食の町サン・セバスチャン
として世界中の人が訪れる一大観光地に
なりました。

けっして直接のみかえりを
求めない行為が、
自分も含むみんなに
大きな発展を産んだわけです。

 

冒頭のことわざ
<家で鳴いたメンドリがよそでタマゴを産む>
は、
「ひどいやつだ!」と
非難したくなるのは
もっともだとは思いますが、

 

それはそれとして

『めざす生き方』

としてはぜひ!
その逆にいくべきですね。

 

どんどんヨソで
卵を産んでもらおう!

と考える方が、

もしかすると
とてもハッピーな人生に
なるかもしれません。

 

ここまでお読みくださって、
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2023年11月21日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまごのことわざ、今回は英国から。

<たまごくらい満タン>
as full as an egg

これは、

ぎっしり詰まってる

という意味でして、

あと、

『めっちゃお腹いっぱい』
『べろんべろんに酔っぱらってる』

なんて意味にも使います。

「食べすぎて卵みたいに満タンだよ。」
「あいつはワインで卵みたいに満タンになってやがるぜ。」

みたいなカンジでしょうか。

 

なかなか興味深いですね。
なんで「たまご」なんでしょうか!?

 

おそらくですが、卵って
中身がすべて液体で満たされている
みたいなイメージがあるからでしょうね。

ゆでたら外のカラとおんなじカタチに
中身がまん丸になりますもんね~。

完全に詰まっている
いわば「天然の生命タンク」

身近でそんなイメージのものって
確かに卵くらいかもしれません。

あと、もしかすると
ハンプティダンプティみたいな
でっぷりお腹のイメージも
あるのかもしれません。

 

◆えっ!シェイクスピア劇にも!?400年からある言い回し

じつはこの表現って
かなり歴史があるんです。

17世紀の辞書にも載ってます。

じっさいに良く使われたのは
1930年代だそう。

そして、
この『卵くらいいっぱい』
という言い回しは

あのシェイクスピアの作品
「ロミオとジュリエット」にも
出てきます。

『おまえの頭は
卵の中が満タンなのとおんなじで
喧嘩でいっぱいだな。』
(Thy head is as full of quarrels as an egg is full of meat.)

『ロミオとジュリエット』第3幕第1場

 

ロミオの悪友
マーキュショーさんのセリフです。

機知に富んでいて詩の才能もあり
作中で最もシェイクスピア的だと
言われる登場人物でして、

ただし
彼がケンカをはじめたことで
結果的にロミオが
町を追放されてしまいます。

言ってる本人がケンカっぱやいという・・。

 

この3幕1場はこの
マーキューショとティボルトが
喧嘩から命を落とすシーン。

これまでの喜劇的な雰囲気から
悲劇へ一気にトーンが変わる
境目の場面になります。

上記のたまご慣用句も
冗談めかした言い回しながら
その後の不穏なフラグにもなっている
巧妙な表現でもあります。

単なる比喩っぽい言い回しですが、
そう思ってみると奥が深いですね。


ところでこばやしは
酒の席で『卵の話』をしだすと
テンション上がって止まらないこと
がよくありまして、

友人には
「そのヘンでストップ!」
なんてしょっちゅう止められます。

 

喧嘩や酒じゃなく
たまごの事でアタマの中が
『たまごのように満タン』
になっているわけですから、

シェイクスピア的な表現だと
文字どおりで正しい・・・!?
のかもしれません。

ここまでお読みくださって、
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2023年10月20日