王述さん卵を投げる【たまご鶏のことわざ その65】
こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。
たまご鶏のことわざ第65弾、今回は中国から。
<王述擲卵(おうじゅつてきらん)>
カッとなって愚かな事をする、というような意味です。
昔々、東晋という国に、王述さん、という方がいました。
この方、めっちゃくちゃ短気でせっかちな人で、
ある時、ゆでたまごを食べようとしたところ、
ツルン!と箸から逃げた。
思わずカッとして手でつかんで床へ投げつけたところ、
どこまでもコロコロと転がっていく……
その転がるたまごを追いかけてゲタの歯で踏みつけようとしたら、
またまたツルン!とすべってあちこち転がり続ける
さらに激怒した王述さんはその玉子を手づかみにして口に入れ噛み潰し、即座に口から吐き出した。
そのハナシを聞いて、王羲之さんは大笑い。
「あの才覚あった親父(王承)がもしおんなじことをやってたら、今頃あんな富ある名家にはなってなかっだろうね。ましてやあのボンボン息子の王述がするなんて(笑)」
というお話。
この王述さんのお父さん(王承)は晋の国で出世し名門貴族となった方で「とにかくすごい立派な人物だ。」という評判でした。息子の王述さんもそれなりには優秀な方だったようですが、とにかく癇癪持ちで「親父はすごかったのに。」と言われがちなポジションの人。あと『王義之さんと仲が悪かったこと』で有名です。
最後に出てきた王羲之(おうぎし)さんはとんでもない大人物です。大将軍で超有名書家、皆さんのパソコンにも入っている行書・楷書・草書の書体を作った方。
なにせ遠く離れた日本ですら、奈良時代~近代に至るまで王羲之さんの書がずーっと字のお手本だった。それくらい超メジャーな人。
じつは怒りんぼの王述さんは、役人だった若い頃の王羲之さんの失礼な態度に腹を立て、上司(州知事)の立場からパワハラをかけ王義之さんを辞職&隠遁させたという過去があったのです。
王羲之さんからすると、アノこんちくしょう「笑い倒してやれ!」という気持ちがあったのでしょうね。
なんだかいろんな意味で小っちゃいエピソードですが、
結局のところ、このお話が現代まで残っているのは、
現代で言うならば『有名人が自分の持ち番組で、気に入らないヤツの失敗を笑い飛ばした』みたいなものでしょうか。
「あの」王羲之サンがそう言った……という事が、1600年未来の現代までエピソードを残したのです。
このお話が書かれた書物『世説新語』では、
ゲタの歯で踏むのを失敗したシーンや、卵が転げて止まらない様子も、不必要なくらい目に浮かぶようにかなり詳しく描写されています。
当時も、巷で面白おかしく広まっていたのかもしれません。
とはいえ千年以上も残る『ことわざ』にされてしまうなんて…書物の影響・メディア(?)の力おそるべしですね。
ここまでお読みくださって、ありがとうございます。