小林ゴールドエッグ

ソムリエ日記 SOMMELIER DIALY

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こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

歌舞伎の小道具に「卵紅(たまごべに)」というものがあるのをご存知でしょうか!?

卵の殻のてっぺんに丸く穴をあけ、中身を出したあとで赤紅を溶いた液を詰め紙で封をします。

役者が切られたり吐血するシーンで、この卵を潰すと流血する。これが「卵紅」です。

そう、いわゆる「血のり」ですね。

携帯性が良くていざというときにクシャッと壊しやすい。

歌舞伎の発展した江戸時代で考えてみても、たしかに卵殻のほかにそんな便利な容器って思い当たりません。卵の殻はなかなか優秀な特殊容器なんです。

そういえば、忍者粉末を卵殻に詰め、いざという時に投げる煙幕玉を作っていた……というようなことをどこかで聞いたことがあります。

ただ……よく考えてみたら激しく動く前提の忍者が持ち歩くのには、卵のカラでは強度不足な気もします。

もしかすると、「歌舞伎の卵紅」からヒントを得た後世の創作なのかもしれません。

〇有名シーンのお約束、卵紅

この卵紅を使用するシーン、

例えば歌舞伎演目「仮名手本忠臣蔵」でも最も人気の高い五段目『鉄砲渡しの場』があります。赤穂浪士の一人・勘平がうっかり鉄砲で人を撃ち殺すシーンがありまして、そこで卵紅が使われているんです。

この演目、略称で「血吐き」なんて言われたりもするそうで、それくらい卵紅の重要度が高いシーンなのです。

ちなみに、鉄砲を撃つまでの細やかなしぐさやタイミングが結構難しいらしく、その大変さを笑い種にした落語まであります。

『素人芝居』という落語で、

素人芝居でこの『鉄砲渡しの場』をやったものの鉄砲の音がどうしても鳴らず、でも撃たれ役は卵紅を口に含んでガブっといっちゃってるので血はダラダラ…困ったあげくに「今日は吐血で死ぬんだ」と説明してバッタリ、というオチの噺です。

こんなパロディがでるくらい一般的だったということですね~。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , 面白たまご話 2020年08月25日

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

たまごの故事ことわざ・第63弾、
今回は中国から。

<二卵弃干城>
(二卵を以て干城の将を捨つ)

「卵2個で将軍を捨てちゃう」
→「小さな欠点にこだわって大事なものを逃がす」
という意味です。


昔々、
中国の春秋戦国時代のお話です。

衛という国に、
孔子の孫・子思(しし)さん
という方が住んでいました。

 

ある時、ししサンが王様に

「苟変(こうへん)という者が
おりまして、大変優秀です。
ぜひ干城(将軍)に採り立てる
べきです。」

と提案したんですね。

 

ところがそれを聞いた王様、

「ふ~む…!?
そのコウヘンとやらは、

税の徴収の際に
卵2個ずつを
ちょろまかしていた
と聞いたぞ。

そんなヤツを重要な職に
つけるなんてダメじゃろう。」

との返答。

 

過去にセコい着服を
していた人物のようです。
うーむ・・・

 

すると子思さんは、

「何をおっしゃるんですか。
立派な大木だって、
小さく朽ちてる所は
何か所かあります。

でも優れた大工なら
そんな所があったって
ちゃんと大木を活かしますよ。

たった2個の卵で、
大将軍を捨てる
おつもりですか?」

と返したそうです。

つまり、欠点に目をつぶって
長所をちゃんと見ましょうよ、
というお話ですね。


『欠けたドーナツ理論』

と申しまして、

まん丸なドーナツの
一部が欠けていると、

残りのほとんどは
欠けてないのに、

とにかく欠けた部分ばかりに
目が行ってしまうんです。

人間も、
ステキで立派な長所が
たくさんあるのに、
とかく欠点ばかりに
目がいきがちなんですね。

皆さんもそんな経験
ありませんでしょうか?

つい欠点が気になる、

そういう一面がある以上、
意識して「良い面」を
見るように訓練していかないと
いけませんよね。

 

二卵を以て干城の将を捨つ』は、
人間は誰でも長所半分・短所半分である、
短所は無くならないんだから
長所を見て伸ばしていきましょう。

そんなことを教えてくれる故事成語です。

 

〇たまご2個はちっちゃなこと……!?

このお話の時代は
だいたい2500年くらい前
なのですが、

その頃に卵が世に普及していて

卵2個が「小さな横領」

として
出てきているという事に、
卵屋としては注目したいです。

 

中国から日本に
鶏が伝わってきた
のも
だいたい2500年前のその頃で、

またローマでも
卵を沢山産むように
鶏が品種改良され始めたのが
同じ時期なんです。

世界的に鶏卵が
広がりつつあった時期
なんですね。

貴重品から「割と身近な食材」へ、
そんな過渡期のエピソードとしての
この故事成語「二卵弃干城」
なかなか興味深いです。

 

ここまでお読みくださって、
ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , たまご・鶏のことわざ 2020年08月12日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

海外の方が日本語習得で困惑するものの一つが「数え方」だそうです。

一本(ぽん

二本(ほん

三本(ぼん

と、規則性なく読み方が変わっていく……

たしかにコレ考えてみればかなりヘンですよね。

ニワトリさんの数え方は「一羽」「二羽」…で、

基本は(わ)と読みます。

ただし、末が10と100のときだけは、

)という読み方になります。(「じゅっぱ」「ひゃっぱ」)

そして、最期が「ん」になる数字、

3とか千とか万の場合は()なんですね。(「さんぜん」など)

不思議ですよね~…。

いち

じゅっ

せん

……なんでそうなっているんでしょうね。

僕たち卵屋は、どうしても鶏さんを数える時は「まとまった数」のことが多いですから、千とか万とか最後が「ん」になる数字を使う、つまり()で読む羽数が圧倒的に多いのですね。

なので、数を聞く方も最初から「なん(何羽)ですか?」なんて()読みで言います。

もし、アタマに数字が無くて「なん?」じゃなく「なん?」と話す人を町で見かけたら、もしかすると鶏卵か鶏肉関係のヒトかもしれません(笑)

そういえば、「卵」も鶏卵業界ではわざわざ「殻付き卵」と呼びますが、これも「殻が無いたまご商品」(液卵)の事が頭にあるから。

一般の方からすると「『殻付き』って……カラが付いているの当たり前だよね?」となります。

こちらも業界「見破られポイント」ですね(笑)

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

カテゴリー | ソムリエ日記 , 面白たまご話 2020年08月1日

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

たまごと偉人のエピソード第22弾、

今回はスペインの天才画家サルバドール・ダリさん。

ほら、グニャグニャになった時計の幻想画、見たことありませんか?

独特の画風と視点は多くの方を魅了し、シュールレアリスムの代表とまで言われています。

さて、このダリさん、卵が大好きだったのですね。

ダリさんは卵の「カタチの完璧さ」美しさに魅せられ、

また「生命の源」であるという卵の存在そのものに魅力を感じていたようです。

数々のたまごモチーフの作品を残しておられまして、少し紹介しますと‥

これは、「ナルシスの変貌」という作品。

左にいる「うつむいたナルシス」と同じ構図で右に「指で持った卵」が描かれています。

これは「皿の無い皿の上のたまご」という作品。なんと!ダリさんがお母さんのおなかの中にいた頃の記憶を元にしたもの。ぶら下げられている目玉焼きは、へその尾でつながったダリさんご自身なのだとか。うーん、確かに夢に出てきそうなインパクト!

他にもいくつもの卵愛にあふれた作品があるんです。

〇これは夢か…!?幻想的な『ダリ風たまご料理』

そしてあまり知られていませんが、なんと!ダリさん料理レシピ本まで書かれているんですね。画家なのに。

ダリさん小さい頃は料理人になりたかったそうで、有名なグニャグニャの時計の絵『記憶の固執』もカマンベールチーズのとろけ具合からイメージしたものなのだとか。

『ダリ執筆の料理本』が出版されたのは69歳の時。全12章・136ものレシピと盛りだくさんです。フレンチ三ツ星の有名レストランが監修協力している本格っぷり。

さすが天才幻想画家が考えるだけあって、

「ダリ風の料理」

という言葉から受けるイメージ通りの、

なんとも夢に出てくるようなクレイジーな盛りつけです(笑)

もちろん玉子料理もいくつも載ってまして、西洋料理としてはかなりマニアックなたまご料理が紹介されています。また機会を見てぜひご紹介しますね。

 

〇家も美術館もたまご…!

また、なんといっても、晩年をすごした彼の家が「たまご」なんです。

通称「卵の家」、ポル・リガットというステキな地中海の港町にありまして、お家のあちこちに卵の卵のオブジェが置かれているんです。今は博物館として公開されています。

ちなみに別の町、ダリの生まれ故郷にある「ダリ劇場美術館」はもっとすごくて、外壁や門の車止めも卵だらけです。

〇新たな視点こそ「たまご」!

ダリさんの作画特徴に「ダブルミーニング」というものがあります。ジーッとある物を眺めているとダンダンと別のものに見えてくる。それを捉え、両方の特徴を絵に現すのです。

僕も当社の卵洗浄ラインを眺めていてふと「大名行列みたいだなぁ。」と思ったり、走る電車を眺めていると10個入り卵パックに見えてきたりすることがありますが、これもきっと僕の中のダリ的絵画素養、ダブルミーニングの発露なのかもしれません(違う)

目の前のものを、新たなイメージや意味としてよみがえらせる、再度生まれさせる。

ダリさんが見ている世界の視点そのものが、完璧なフォルムから新たな生命を生み出す「たまご」につながっていたのかもしれません。

生まれる前のイメージに卵を想い、また晩年を卵モチーフに囲まれて過ごす。

たまご屋としては、なかなかステキな生き様だなぁと感じました。

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

こんにちは!
たまごのソムリエ・こばやしです。

インド人もビックリ!なほど
日本人は大のカレー好きです。

ビーフカレー、チキンカレー、
シーフードカレー、キーマカレー…、

色んな定番カレーがありますよね。

ところが、
日本ではほぼ知られてなくて、
でも欧米と本場インドでは
いちジャンルとして確立している
カレーに、

エッグカレー

なるものがあります。

 

これは、

ゆでたまごをスパイスで炒め、
カレーでじっくり煮込んだ料理

 

試しに

「eggcurry」と
検索してみて下さい。

下のような画像が
ズラリと出てきます。

ちなみに日本語で
「エッグカレー」と
検索すると……

 

目玉焼きや
スクランブルエッグや
ゆでたまごが
ちょこっと乗った
カレーの画像がほとんど。

日本人は
卵消費量が世界第2位で、
カレーだって大大大好き国民なのに、

なぜか?不思議に
「エッグカレー」は
日本に定着していないんです。

面白いですね~。

 

エッグカレーは、
それをご飯にかけたり
ナンで食べたり・・・
というよりは

「それだけを食べて」
満足感がある料理です。

 

そのため、
『ご飯好き』な日本人への
定着があまり進まなかった
のかもしれません。

 

ご飯にかけなくても
美味しい、つまり、

「低糖質料理」
として優秀
なのです。

 

カレーを食べたいけど
ダイエットしたい!

という方には最適ですね。

 

“低糖質”の切り口は
健康ニーズに乗って
増えていますので、

エッグカレーは
これから流行ってくる
かもしれません。

味もとっても美味しいですし。

 

エッグカレーのレシピは、
本場だけあって
本格的なスパイスを
使ったものが多いですが、

おばあちゃんやお母さんから
受け継がれた秘密のコツが
各家庭にあって、

卵の味付けが
家ごとに違う
“自慢の料理”
になっています。

 

日本のカレーと同じですね!

日本のお店でも、
たとえば日本風に醤油で
「煮卵」にしてから
エッグカレーにするとか、

ピクルスエッグ風の
さっぱりさを演出するとか、

低糖質ヘルシーで
店独自のエッグカレーとして

メニューに組み入れられても
面白いのではないでしょうか!

 

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

こんにちは!たまごのソムリエ・こばやしです。

『アフターコロナ』なんて言葉もできまして、コロナ禍終息後のいろんな予測が出てきています。

「外食業界は、元のような活気には戻らないだろう。」

そんな悲観的な声も良く耳にします。

大多数の人の行動原理や

価値観が変わってしまった

なので、コロナ終息してもリスクある外食なんてしないだろう…

…、という予測ですね。

確かに、「コロナが収まったから、また今まで通りワイワイ大宴会をしようぜ!」とはなりにくい、そんなイメージがあります。

ただし今の時点では、です。

そこで本日は、あえて楽観的な未来予測を過去の流れからしてみたいと思います。

僕が楽天的な未来を考える時、

イメージが浮かぶのが「焼肉」と「たまご」です。

 

コロナ前にも業界存亡の危機が!?

焼肉って、本当に何度も「業界ごと無くなるピンチ」がありました。皆様覚えていらっしゃいますでしょうか!?

20年前には狂牛病

10年ほど前には口蹄疫

11年前に豚インフルエンザ、なんてのもありました。

そのたびに、

「もう食べない!」なんて言葉がネット上にもあふれ、来店のお客様は激減、前年同月比の売上90%ダウン!……なんてのがどの店も起こっていたわけですね。

そういえば狂牛病の際には、吉野家さんの輸入した牛肉に背骨が混入していた事で大きなバッシングがありました。あの時は「二度と吉野家では食べない!」なんて言われていましたよね。

ところが、コロナ直前で考えますと、焼き肉店はどこも大賑わい、吉野家にいたっては2月までの営業利益は前年比で39倍という好調ぶりです。

あんなに恐れられていた「背骨」だって、今じゃタウン誌でも「絶品!テールスープ特集♪」みたいな紹介されるくらい、「あれは何だったんだ!?」状態です。

つまり…

誤解をおそれずに書くならば

最期は「美味しい」が勝つ

と言えるのではないでしょうか。

(もちろん、正しい知識の伝達や業界の対策などたくさんの努力があってのことではありますが)

そして、たまごの歴史にも、同じような事がありました。

 

800年のたまご禁食を終わらせたもの

実は日本では、卵は800年ほど食べる習慣が途絶えた歴史があります。

奈良時代に入ってきた新しい考え方「仏教」によって、卵を食べる事を「いけない」とする考えが急速に広まったのですね。そして、実に江戸初期まで800年ものあいだ表立って卵を食べる人がいなくなったわけです。

当時の著名人の発言や、鎌倉時代のベストセラー本「日本霊異記」「沙石集」(落語や狂言の基になったともいわれる説話集)などのメディア的(?)影響からも「食べちゃいけないよ。」というメッセージが一般大衆に浸透しました。

そして、

日本での長い長い禁卵食を終わらせたのは、西洋から入ってきたカステラ・天ぷら等の「思ってもみなかった美味しさ」だとも言われます。

新しい「美味しさ」を体験したことで、

「殺生はダメ」から「良く考えたら、たまごって生き物じゃないし、食べてもいいんじゃね?」へと考えが変わった。圧倒的に新しい「美味しい」が、戒律の解釈を変えてしまったわけです。

その結果たまごは、江戸の初期には玉子料理ベストセラー本「江戸料理集・卵百珍」(1674年)まで出版される人気食材になります。

僕たちは、生きる熱意の根源として、

「美味しいもの」を求める意欲を持っています。

それも、自分で思っている以上に、

ものすごく強く。

経営上のリスクヘッジとして、「できるだけ悲観的な将来」に対して備え行動する事は重要ですが、心のどこかに、『「ああ、そんなこともあったね。そういえば。」くらいのスッカリ元通り活性化した外食業界』が戻ってくる楽天的な未来を、元気の源として持っておくのも良いのではないでしょうか!?

ここまでお読みくださって、ありがとうございます。

(関連:なぜ日本人は江戸時代にたまごを食べ始めたのか?-たまごのソムリエ面白コラム

カテゴリー | ソムリエ日記 , 飲食店さまへ 2020年07月18日